2026.9.17
DX・AI活用
「職員にChatGPTを使わせて大丈夫?」と聞かれたら|介護事業所が決めるのは1つだけ
- 職員から「ChatGPTを使っていいですか」と聞かれたとき、その場で答えられる
- 「AIが勝手に動く」「介護ソフトを操作される」という心配が、なぜ起きないか説明できる
- 事業所として決めるルールを1つに絞って、職員に伝えられる
「うちの職員にChatGPTを使わせて大丈夫ですか」。管理者の方から、この質問をよく受けます。職員の方からも「これ、AIに聞いていいんですか」と確認されることがあります。
答えはいつも同じです。「基本的に問題ありません。守ることは1つだけです」。
ただ、そう言い切れるようになるまでには、心配の中身を1つずつ確かめる必要がありました。管理者の方が口にする不安は、だいたい3つに分かれます。AIが勝手に動いて、介護ソフトやパソコンを操作してしまわないか。AIの答えが間違っていたら、大変なことになってしまわないか。利用者の情報を入れてしまって、外に漏れないか。
この3つのうち、事業所としてルールを決める必要があるのは、最後の1つだけです。残りの2つは、仕組みと使い方を知れば心配が要らなくなります。まず、その2つから片づけます。

AIが勝手に動いて、介護ソフトを操作したりしないか
これは大丈夫です。人がそういう設定をしない限り、AIは勝手に動きません。ChatGPTのようなチャット型のAIは、ふつうの使い方をしている限り、文章を返すだけです。パソコンの中のファイルを開いたり、介護ソフトに入力したりすることはできません。
AIがパソコンを操作できるのは、人が「このフォルダを整理して」「このメールの下書きを、いつもの形で作っておいて」と、接続と許可を与えたときだけです。ChatGPTの画面に文字を打って、答えを出してもらうだけの使い方では、AIがパソコンを勝手に操作できる状態にはならないんです。映画のようにAIがパソコンを乗っ取る場面は、この使い方では起きようがありません。安心してください。
私は事業所の文書作成や調べ物にAIを毎日使っていますが、頼んでいないことをAIが勝手に始めたことは、これまで一度もありません。頼んだことを、頼んだ範囲でやる。AIはプロンプト(AIへの頼み方の文章)に、とても忠実なんです。
職員が使うのは、主に「書類作成や記録の効率化」「ご家族向けの案内文の作成」「レクリエーションの企画」の3つの場面でしょう。この使い方なら、AIがパソコンを勝手に操作することは、まずありません。
AIの答えを、信じていいのか
AIは間違いなく賢い、いわば名馬です。ただ、賢いからこそ、乗り手の頼み方があいまいだと、思ったとおりには走ってくれません。「思った答えが返ってこないから使えない」ではなく、「返ってこなかったときに、何を見直すか」を決めておけば、十分に力を発揮してくれます。
AIの答えが自分の想定と違うことは、毎日使っている私でも少なくありません。そのときに見直すのは、この2つです。
答えが違うと思ったら、見直すのはこの2つ
1. AIが答えを出すのに必要な情報を、こちらがちゃんと渡せていたか
2. こちらの質問文が、自分の知りたいことになっていたか
想定と違う答えの多くは、この2つのどちらかが原因です。渡した情報が足りなければ、AIはその範囲でしか考えられないので、期待した答えは返ってきません。「AかBか、自分でも答えに悩んでいる」という相談ほど、この2つを丁寧に書くようにしています。すると、悩みが少し整理された答えが返ってきます。
AIが得意なのは、正解がある調べ物です。たとえば加算の要件。自分でGoogleで調べると、1〜3本の記事を読んで、正しいかどうかを自分で確かめる必要があります。AIに調べさせると、「その答えと、根拠になる通知や条文」を一緒に出してくれます。AIの回答には根拠をセットで出させるのがコツです。
AIの答えと自分の見立てが違ったとき、最後に決めるのは人です。AIの答えを採用したのは人間で、万が一、その答えのせいで事業所が損をしたとしても、責任はAIを頼った事業所にあります。
ところで、AIを使うことを利用者やご家族に説明する必要があるのか、疑問が浮かびませんか。ここは、しっかり同意を得ておくほうが安心です。書面に残しておきたいなら、同意書に署名をいただくとよいでしょう。そこまで重く受け止めないなら、メールやLINEで軽く説明しておく。ただし、まったく説明をしないことはおすすめできません。口頭でもいいので、必ずAIを使っていることを伝え、支援経過に書いておく。あとで何かあったときに、説明がつきます。利用者やご家族に説明するときは、私が同意書に使っている1文を参考にしてください。
AIで作成・整理した記録や文書は、担当のケアマネジャーが内容を確認・修正したうえで、最終的な判断を行います。
――AIには案を出してもらいますが、最終判断は職員が行います。
「AIの答えは下書き。最終判断は、そのAIを使っている職員」。このように整理しておくと分かりやすいでしょう。
AIを使うときの最低ルールは1つ:個人が特定できる情報は入れない
企業が個人情報を厳重に取り扱う義務(個人情報保護法)が始まったのは、2005(平成17)年4月1日からです。介護業界は、高齢者の病歴、身体の状態、家族構成、財産の状況など、とてもデリケートな「機微情報(プライバシー性の高い情報)」を大量に扱うため、一般の企業よりもさらに厳格な取り扱いが求められます。
「佐藤さんが昨日転んだ」という一文は、氏名と出来事が結びついているので、それだけで個人情報です。だから、AIに文章を整えてもらいたいときは、個人名を「Aさん」のような、職員が思い出しやすい言葉に置き換えます。出来事や状態だけなら、誰のことかは分かりません。整えてもらった文章を支援経過に写すときに名前を戻せば、それで完了です。
とはいえ、いくら注意していても、うっかり「佐藤さん」と入ったままAIに渡してしまうことは、あると思います。そのときに慌てないために、先にやっておくことが1つあります。
ChatGPTの設定で、「すべての人のためにモデルを改善する」をオフにしておくこと(設定→データコントロールの中にあります)。初期設定のままだと、入力した内容がAIの改良のために使われることがあります。この設定をオフにしておけば、安心です。
ただし、これは「うっかりの保険」で、ルールの代わりにはなりません。入力した文章は、答えを作るために、ChatGPTを提供している会社のコンピュータへ一度は送られます。学習オフにしても、送られること自体は変わらないからです。守るのは、あくまで「個人が特定できる情報を入れない」の1つ。設定は、その次に置くものです。
管理者の皆さんは、この最低のルールと、なぜそう決めるのかを職員に伝えておくと、不安の材料が1つ減ります。ぜひ、社内研修などで実施してください。研修の組み立てから一緒に、というご相談も受けています。
私の事業所では、AIを使っていることを利用者・ご家族に説明し、同意をいただいています。2026年6月以降に新しく担当する方には、「個人情報使用同意書」にAIとICTの業務利用についての1条を足しました。すでに契約している方には、別紙1枚で説明してお渡しすることをおすすめします。
同意書に1条を足すとき、決めたことが1つあります。事業所でできていないことは、同意書に書かない。これだけです。
同意書は、利用者・ご家族に見せる文書であると同時に、運営指導のときに「うちはAIをこう管理しています」と示す文書にもなります。そこに「利用者の情報は一切入れません」のような、実際には毎日守りきれないことを書いてしまうと、書いてあることと実際の使い方がずれます。運営指導でそのずれを聞かれたら、その場で答えられません。
だから足した1条には、いま実際にやっていることだけを書きました。先ほどの「AIで作った文章は、担当のケアマネジャーが確認して最終判断する」の1文が、それです。
同意書がすぐに用意できなくても、まずは職員に「個人が特定できる情報は入れない」を周知し、利用者・ご家族には「業務にAIを使っていること」を口頭でよいので伝えるところから始めましょう。
職員に使わせるとき、管理者が最初に決めること
管理者の方に勧めているのは、次の3つです。
1つ目。会社のアカウントを1つ作って、全員で共有する。職員が自分の個人アカウントで使い始めると、事業所として何に使っているのかが分からなくなります。とはいえ、職員がAIに何を相談しているかを監視するようなことをすると、かえって使われなくなります。細かいルールはあとから整えれば十分です。職員が使いにくくならないように気をつけましょう。
2つ目。無料版から始める。最初から有料版にする必要はありません。今日時点(2026年9月)のAIは、無料版でもとても優秀です。職員がAIを使うことに抵抗がなくなり、もっと仕事を速くしたいと思ったときに、有料版を検討しましょう。
3つ目。調べ物と文章の整理から使ってもらう。「個人情報は入力しないこと」とだけ伝えても、職員によって受け取り方がばらつきます。個人情報についての社内研修をしておけば、AIを使うときに気をつける点も押さえられますが、研修の時間が取れないときは、最初から用途を「これとこれだけ」と絞っておくほうが、ルールが行き届きます。たとえば、次のような使い方です。
まずは、この2つを打ってみてください
デイサービスを調べる:「〇〇市〇〇町の周辺で、半日型のデイサービスを一覧にして出して」
加算を調べる:「訪問介護の初回加算について、要支援から要介護に区分が変わったときに算定できる要件を、根拠の通知と一緒に教えて」
毎日5分の作業が、1分になる
介護の仕事にAIを使っても、1時間の仕事が突然10分になる、というような劇的な変化はまだ起きません。起きるのは、毎日5分、10分かかっていた面倒な作業が、1分になる変化です。
加算の要件を確認する。記憶だよりの出来事を時系列に整える。ご家族への説明文を作ってもらう。1つ1つは小さい作業ですが、そのつど発生すると、仕事としては面倒なものです。「あとで転倒事故の報告書、書かないとな…」。このときの重さは、起きたことを誰が読んでも伝わる文章にしなければいけない、という脳のリソース(脳のエネルギーやスタミナ)が奪われていることです。この小さな消費が少しずつなくなると、本来力を入れたい現場の仕事に、力が戻ってきます。
「AIは怖いもの」というイメージは、使い方がよく分からないときに強く出てきます。車はとても危険な道具ですが、交通ルールを理解して運転の練習をすれば、怖さはだいぶ減ります。AIも同じです。「個人が特定できる情報を入れない」。まずはこれだけを、事業所のルールにしましょう。
職員から「うちでChatGPT、使っていいですか」と聞かれたら、「いいですよ。ただ、名前だけは入れないで」。管理者の返事は、これで大丈夫です。AIの使い方は、事業所ごとに違います。そこは一緒に考えます。ほかの使い方は、この下の「あわせて読みたい」からどうぞ。
うちの職員には、何から使わせればいいですか?
職員にどんな用途で使わせるか、具体例を見たい方へ
ChatGPTって介護の仕事で使っていいの?現場で役立つ9つの使い方 →(https://puzzle-peace.online/magazine/462/)
ルールを決めたあと、導入の順番を整理したい管理者の方へ
介護事業所の管理者がAIを導入するとき最初にやるべき3つのこと →(https://puzzle-peace.online/magazine/628/)
「確認と送信は人がやる」を実際の仕事でどう分けているか知りたい方へ
提供票のPDFを事業所ごとに自動で分ける|ケアマネがFAXの前にAIに頼んだこと →(https://puzzle-peace.online/magazine/644/)
こんな課題を解決します
- ●地域に信頼される事業所を作りたい
- ●業務効率を上げ、スタッフ間の連携を強化したい
- ●新たに介護事業を始めたい
- ●紙業務をデジタル化し、IT環境を整備したい