2026.5.1
DX・AI活用
介護事業所の管理者がAIを導入するとき最初にやるべき3つのこと
「ChatGPTは自分でも使っている。便利なのはわかる。でも、うちの事業所でどう定着させればいいのか、正直イメージがわかない」
コンサルの現場で、管理者の方からよく聞く言葉です。AIの存在を知らない人はほぼいない。でも、組織として継続的に使い続けられている事業所は、まだ少数派です。
私はケアマネとして10年、介護業界で18年働きながら、現在は介護事業所のDX・AI活用支援を専門にするコンサルタントとして活動しています。これまで複数の事業所でAI導入を支援してきた経験から言うと、AIが定着しない原因は、「順番」と「仕組み」にあることがほとんどです。
この記事では、介護事業所の管理者が最初にやるべき3つのステップを、検証期間・導入業務の提案とその理由も含めて、具体的にお伝えします。
「まず現場レベルでのChatGPT活用イメージを掴みたい」という方は、先にこちらの記事も参考にしてください。
→ 介護業界18年の現役ケアマネがChatGPTを実務で使ってみた結果【正直レビュー】
なぜ介護事業所のAI導入は継続しないのか
AI活用が「一時的なブーム」で終わる事業所には、共通したパターンがあります。大きく3つです。
パターン①:AIを入れただけで、運用ルールがない
「ChatGPTのアカウントを作って、スタッフに使っていいよと伝えた」——これで終わりにしてしまうケースです。何に使っていいのか、個人情報はどこまで入力していいのか、ルールがないまま個人任せにすると、使う人と使わない人に二極化します。やがて「うちには合わなかった」という結論になりがちです。
パターン②:「やってみて」で現場に丸投げ
管理者・経営者がAIに詳しくないため、「若いスタッフに任せれば使いこなしてくれるだろう」と期待するケースです。実際、20〜30代のスタッフはすぐに使い始める一方、40〜50代のベテランスタッフは「自分には難しそう」と距離を置くことが多い。結果として、事業所内でAIを使う人と使わない人が分かれ、業務のバラつきや不公平感が生まれます。日常業務に組み込む仕組みがなければ、この温度差は埋まりません。
パターン③:効果が見えないまま熱が冷める
「なんとなく便利な気がする」止まりで、AIを活用することで得られる具体的なメリットを感じられないケースです。効果が実感できなければ、モチベーションは続きません。特に多忙な介護現場では「使う手間」が先に立ち、やめてしまうことになります。
これら3つのパターンに共通しているのは、「管理者が仕組みを作る」という視点が抜けていることです。AIは道具です。使い続けるための仕組みを設計するのは、管理者・経営者の仕事です。
では、どう進めればいいのか。私がコンサルの現場で実践している3ステップを紹介します。
ステップ1|スモールスタート——1業務・1人・2週間から始める
最初から全スタッフに展開しようとするのは、失敗のもとです。まず「1つの業務」「1人(または2〜3人)」に絞って始めることが重要です。
ステップ1で取り組むべき業務(提案と理由)
以下の3つが、介護事業所でスモールスタートに向いている業務です。
① 会議・ミーティングの議事録作成
理由:介護現場の会議は、担当者会議・サービス担当者会議・スタッフミーティングなど種類が多く、記録の作成に時間がかかる業務の代表格です。録音機器がなくても、会議中にメモした箇条書きをそのままChatGPTに貼り付けるだけで、読みやすい議事録に整えてくれます。
たとえばこんな使い方です。
【ChatGPTへの入力例】
以下のメモをもとに、議事録を作成してください。項目は「日時・参加者・議題・決定事項・次回までのタスク・担当者」でまとめてください。
・9/3 10時〜 スタッフミーティング
・参加:田中・山田・鈴木・荒木
・先月の利用者苦情対応について振り返り
・記録の書き方を統一することになった
・来月から新しいフォーマット使用→田中さんが作成
・次回は10/1
このように箇条書きのメモを渡すだけで、整った議事録が数秒で出来上がります。Before/Afterの時間差を実感しやすく、管理者自身が最初に試す業務として最適です。
② 利用者家族・関係機関への連絡文・お知らせ文の下書き
理由:毎日〜週数回発生する定型業務で、AIに不慣れなスタッフでも使いやすい業務です。「丁寧な文章を書かなければ」というプレッシャーから解放されるだけで、業務の負担感が大きく変わります。
たとえばこんな使い方です。
【ChatGPTへの入力例】
利用者の家族に、来週からサービス時間が30分早まることを伝える連絡文を書いてください。丁寧な文体で、できるだけ簡潔にお願いします。
この一文を入力するだけで、そのまま使えるレベルの連絡文が出てきます。手直しが必要な場合も、ゼロから書くより大幅に時間が短縮されます。
③ 求人票・スタッフ向けの案内文の作成
理由:文章を「ゼロから書く」負荷が特に高い業務のひとつです。求人票は特に「何を書けばいいか」で手が止まりやすく、管理者の時間を大きく奪います。
たとえばこんな使い方です。
【ChatGPTへの入力例】
訪問介護ヘルパーの求人票を作成してください。
・勤務地:千葉県柏市
・勤務時間:週3日〜・1日4時間〜
・時給:1,200円〜
・未経験歓迎、資格不問
・アットホームな職場で、スタッフ定着率が高いことをアピールしたい
条件を箇条書きで渡すだけで、求人サイトにそのまま掲載できる文章が出てきます。管理者が直接使うことが多い業務なので、効果をすぐに体感できます。
検証期間:2週間
2週間を「試験期間」と位置づけます。毎日使う必要はありません。対象業務が発生するたびにAIを使ってみる、それだけでOKです。この期間中に「使ってみた感想」を記録しておいてください(メモ帳でもLINEのメモでも)。ステップ2の効果測定に使います。
ステップ2|効果測定——「なんとなく便利」で終わらせない
2週間のスモールスタートを終えたら、次は効果を「見える化」します。感覚で「便利だった」「あまり使えなかった」で終わらせず、数字と事実で判断することが継続につながります。
測定すべき指標(3つ)
① 作業時間の変化
「議事録を作るのにかかっていた時間」「連絡文を書くのにかかっていた時間」をAI使用前後で比較します。正確でなくてもかまいません。「30分が10分になった」「半分以下になった」という肌感覚でOKです。
② 使用頻度・スタッフの反応
「何回使ったか」「使った感想はどうだったか」をヒアリングします。頻度が高いほど、その業務との相性が良い証拠です。
③ 修正・手直しの回数
AIが出力した文章をどれくらい修正したかを確認します。修正が少ないほどその業務は「使える」、多ければプロンプト(指示文)の改善か、業務の見直しが必要です。
測定方法:印刷して貼るだけ、1〜2分で書けます
「記録しましょう」と言われると、それだけで面倒に感じてしまうことはありませんか。忙しい介護の現場では、記録のハードルが高いと続きません。
そんな方に、簡単に振り返りができるシートを作成しました。「作業時間は増えた・変わらない・減った」「AIの精度はそのまま使えた・少し修正・大幅修正」——チェックや〇をつけるだけです。自由に書くのは「一言メモ」の欄だけ。1日1〜2分もあれば記録できます。
2週間後に見返すと、「この業務は続ける価値がある」「この業務は合わなかった」がはっきり見えてきます。感覚ではなく、自分たちのデータで判断できるようになります。
→ 【無料ダウンロード】AI活用記録シート(PDF)
※ A4横向き・1枚で2週間分を管理できます。印刷してそのままお使いください。
具体的なプロンプト(ChatGPTへの指示文)の書き方については、こちらの記事で実例を紹介しています。
→ 介護業界18年の現役ケアマネがChatGPTを実務で使ってみた結果【正直レビュー】
検証期間:1ヶ月(週次記録→月次で判断)
週に一度、5分だけ記録を見返す時間を取ります。1ヶ月後に「このまま続ける」「業務を変える」「プロンプトを改善する」の3択で判断します。ここで「続ける価値あり」と確認できた業務だけをステップ3に進めるのがポイントです。
ステップ3|横展開——成功体験を組織に広げる方法
ステップ2で「使える」と確認できた業務を、いよいよ組織全体に広げます。ここで重要なのは、成功体験を共有することで自然に広げることです。
横展開する業務の提案(優先順)
① シフト調整連絡・スタッフへの業務連絡テンプレ
理由:誰でも使いやすく、均一化しやすい。「このフォーマットで送ってください」という形に落とし込めるため、ITが苦手なスタッフでも抵抗感がありません。
たとえばこんな使い方です。
【ChatGPTへの入力例】
来週月曜日のシフトについて、スタッフ全員に連絡するメッセージを書いてください。
・内容:来週月曜(5/6)は朝礼を8:45に変更します
・理由:新スタッフの研修があるため
・対象:訪問スタッフ全員
・トーン:丁寧だけど簡潔に
💬 ChatGPTの出力イメージ
お疲れさまです。来週月曜日(5月6日)の朝礼について、時間変更のご連絡です。新スタッフの研修の関係で、通常より15分早い8:45開始となります。ご都合の調整をお願いいたします。ご不明な点は管理者までご連絡ください。
② 新人スタッフ向けの研修資料・マニュアルの作成補助
理由:一度作れば繰り返し使える。品質が安定。管理者・サービス提供責任者の「書く負担」を大幅に削減できます。
たとえばこんな使い方です。
【ChatGPTへの入力例】
訪問介護の新人スタッフ向けに、初日の注意事項をまとめた資料を作ってください。
・項目:身だしなみ・あいさつのしかた・利用者宅での基本マナー・緊急時の連絡先
・読み手:介護未経験の新人
・文体:やさしく、箇条書きで
💬 ChatGPTの出力イメージ
【初日のチェックリスト】
■ 身だしなみ
・爪は短く切り、ネイルは控えましょう
・香水・強い香りのものは使用しないでください
■ あいさつ
・訪問時は「おはようございます。〇〇事業所の△△です」と名乗ります
■ 利用者宅でのマナー
・玄関では必ず靴を揃えて上がります
・私物には触れず、許可なく引き出しや収納は開けません
■ 緊急時の連絡先
・体調急変・転倒などは、まず事業所(000-0000-0000)へ連絡
③ ケアプラン・支援経過記録の補助入力
理由:ケアマネやサ責の時間を最も奪っている業務のひとつ。個人情報の取り扱いルールと合わせて整備することで、安全に使える環境を作れます。
たとえばこんな使い方です。
【ChatGPTへの入力例】
以下のメモをもとに、支援経過記録の文章を作成してください。個人名は「利用者」と表記してください。
・日時:4月25日 午前10時
・内容:訪問時に足のむくみを確認。本人は「昨日から気になっていた」と話す
・対応:家族に電話で報告。かかりつけ医への受診を勧める
・次回:様子を継続観察
💬 ChatGPTの出力イメージ
4月25日(金)10:00 訪問介護 支援経過記録
訪問時、利用者の両下肢にむくみを確認。利用者より「昨日から気になっていた」との訴えあり。バイタルに大きな変化はないものの、状態の変化として家族へ電話にて報告した。かかりつけ医への受診を勧め、了承を得る。次回訪問時も引き続き経過を観察する。※ 氏名・住所・病歴などの個人情報は入力せず、「利用者」と置き換えることで安全に活用できます。
横展開と同時に「AIルール」を整備する
スタッフ全体に広げるタイミングで、必ず「AIの利用ルール」を文書化してください。最低限、以下の2点は明記が必要です。
- 利用者・家族の個人情報(氏名・住所・病歴等)はAIに直接入力しない
- AIの出力は必ず人間が確認・修正してから使用する
個人情報とAIの付き合い方については、別記事で詳しく解説予定です。
検証期間:3ヶ月(部署→全体の段階展開)
最初の1ヶ月は「先行して使っているスタッフ」が周囲に自然に共有する期間。2ヶ月目から部署・チーム単位で使い方を統一。3ヶ月後に全体の定着度を確認し、次の業務展開を判断します。
まとめ|管理者の役割は「使う」より「仕組みを作る」こと
3つのステップを整理します。
- ステップ1(スモールスタート):1業務・1人・2週間で始める
- ステップ2(効果測定):時間・頻度・修正回数を記録し、1ヶ月で判断する
- ステップ3(横展開):成功体験を共有しながら、3ヶ月かけて組織に定着させる
管理者がやるべきことは、AIを「一番うまく使うこと」ではありません。スタッフが自然に使い続けられる仕組みを設計することです。それが、継続するAI活用と、継続しないAI活用の決定的な差です。
「どの業務から始めればいいかわからない」「うちの事業所の規模でこのステップは使えるのか」——そういった具体的なご相談は、ぜひ一度お声がけください。
介護事業所のAI・DX活用や経営改善について、具体的なご相談はこちらからどうぞ。まずは無料でお話を聞かせてください。
こんな課題を解決します
- ●地域に信頼される事業所を作りたい
- ●業務効率を上げ、スタッフ間の連携を強化したい
- ●新たに介護事業を始めたい
- ●紙業務をデジタル化し、IT環境を整備したい